ステンレスって何?

ステンレスは錆びにくい材料として知られていますが、本当の組成はどうなっているのでしょうか。

ステンレスは、もともとハガネ(精練された鉄)の仲間で、このハガネにクロムを13%以上配合することで錆びにくくした合金です。クロムを加えることでなぜ錆びにくくなるのか。これは錆とは何かを考えることで理解が深まります。錆は鉄と酸素が結びついた酸化鉄です。酸化鉄は非常にもろく、素材として使用することはほとんどできません。
錆びないようにするためには鉄が錆びないようにすればいいのですが、地球上に酸素がある限り、必ず反応して酸化鉄が発生してしまいます。地球上には鉄が多数含まれていますがこの地球上に自然に存在する鉄の多くは酸化鉄です。
鉄を作る際はこの酸素と鉄を分離すること(精練)が必要になります。
この鉄にクロムを配合すると、鉄の表面にクロムと酸素が反応することでできる、酸化被膜(不動態皮膜)ができ、この酸化被膜により内部の作用で、内部が酸化しにくくなる、つまり錆びにくくなるのです。
しかし、ステンレスも元の組成は鉄です。ステンレスといえども酸化しないわけではありません。取り扱いを適切に、錆びないように気をつけましょう。
ステンレスの材質記号は、SUS(さす)です。SUSの後に3桁の番号などをつけて、ステンレスの鋼種を区別します。JIS規格だけでも、200余りの鋼種がありますが、一般的に使われ、市中で入手出来るものは数種類です。他の多くは、用途に応じて造られている専用鋼種で、特殊なものと考えてよいでしょう。
※SUSは、Steel Used Stainless (錆の少ない鋼材)の頭文字。

ステンレスの鋼種は、一般の人が判別できるのは大まかに2種類で、磁石につくものと、つかないもの(磁性の有無)になります。

磁性のある鋼種は、主要添加元素がクロム(Cr)のみのもの。記号では、SUS430のように、4百番台の数字がつきます。冶金的には、フェライト系・マルテンサイト系の2種類に分かれます。クロム系ステンレスという場合もあります。フェライト系は、SUS材の中では安価なため、用途上問題なければコスト面で採用されることが多いようです。

磁性のない鋼種は、主要添加元素がクロム(Cr)とニッケル(Ni)です。記号では、3百番台の数字がつきます。オーステナイト系ステンレスと呼びます。ニッケルが入ることで、耐食・耐熱性が向上します。価格は、上記フェライト系ステンレスより(当たり前ですが)高価です。ニッケル系ステンレスと呼ぶこともあります。厳しい加工や溶接で素材が変質した部分は、磁性を少し帯びたり腐食しやすくなります。

ニッケル系ステンレスの板(2B)は、ニッケル成分のため白銀色をしています。クロム系のそれは、クロムを反映して黒っぽい光沢色(クロムメッキに似た色)をしています。並べて比べれば一般の方でもその違いが判ります。しかし、加工製品になると表面処理・研磨を施されたり、汚れなどが付いたりするので色合いで判別するのは困難になります。

その他、上記の2鋼種をベースとして、数種類の元素を少量添加して様々な特徴をもったステンレス(鋼種)がつくられています。目的に応じて、モリブデン・硫黄・マンガン・銅・チタン・ニオブなどが添加されています。

また、各鋼種において、炭素(カーボン・C)の含有量を、微量に抑えたローカーボン材があります。炭素は、素材の強度(硬さ)を左右するとともに、腐食や、割れなどを起こす原因になる元素です。炭素量を低減して、耐食性を高めたものが、ローカーボン材です。記号の最後に、SUS304Lのように、L(える)をつけて表します。少し柔らかめの材料になります。(価格も高くなる)
ステンレスの比重(質量)は、7.7〜8です。(鋼種によって異なります。)SUS304が、比重7.93ですので、鉄の重さとほぼ同じです。板厚1mmで1mx1mの板の重さが、7.93kgになります。比重8と覚えておけば、材料の重量を知りたいとき、体積を計算して8倍すれば、おおよそ間違いのない重量がだせます。

ステンレスは、鉄(軟鋼)に比べ硬く靭性(ねばり)があるため、切断や削り・曲げなどの加工に、機械のパワーや刃物の硬さなどがより必要になります。ステンレス製品が高価になる理由は、材料費が鉄に比べ高いこと以外に、この加工の難しさによる要因が大きくかかわっています。鉄に比べ強度があるため、鉄より薄い(細い)材料を使っても強度を得ることができる面があります。

代表的なステンレスの鋼種

SUS304(さす・さんまるよん):Cr18%、Ni8%を含む。この含有率(%)をもって、18−8ステンレスと表すことがある。耐食性・耐熱性良好で、最も一般的に使用されている。また、板、パイプ、アングル、丸棒など様々な形状の材料が造られていて、入手しやすい。塩素や酸の強い環境では腐食がおきる。溶接の熱影響を受けたところで、腐食割れをおこすことがある。耐熱温度は、700〜800℃が目安。熱膨張率が大きいので、熱歪みを抑える加工方法の工夫が大切。通常、ステンレスというとこの鋼種を使用することが多く、当社でも鋼種の指定がない場合は、SUS304を使用している。

SUS316(さす・さんいちろく):SUS304を基に、Ni量を増やし、モリブデン(Mo)を2〜3%添加した鋼種。Moの添加により、耐酸性、耐熱性が向上する。化学薬品・海水などを扱う環境などで、SUS304では耐久性・耐食性に劣る場合に使用する。Moは、高価な元素なので、材料もその分高価になる。入手できる材料の形状は、SUS304に比べて多少制約がある。外観では、SUS304とSUS316は見分けがつかないので、Moの有無を判別する薬品などが売られている。

SUS430(さす・よんさんまる):Cr18%、Niなし。磁石にくっつく。SUS304に比べ、耐食性に劣るが、安価なため、厨房(台所)用品・家庭雑貨などで多く利用されている。家庭などの水周りで使う程度の環境であれば、ほぼ問題はない。家庭にあるステンレス製品を、磁石につくかどうか試してみるとおもしろいかも知れない。熱膨張率が小さいことが利点で、ステンレス屋根(建材)や温水器などは、SUS430に、Moを添加して錆びにくくした鋼種(SUS444)が多く採用されている。

SUS440C・SUS420J2:Cr13%の鋼種(マルテンサイト)で、焼き入れ(熱処理)で硬くなるため、バネ用途や刃物に利用される。ステンレスのスケール(定規)や包丁・ナイフなどは、このての材質のものが多い。カーボンの量が、焼き入れ硬化の程度を左右する。ステンレスの定規やノギスを雨ざらしにすると、結構錆がくるのは、用途的にこういう材質(が必要)で作られているためです。

SUS410S系:鉄に比べ耐食・耐熱性があり、安価なステンレス鋼種のため、自動車の排気系部品(マフラーなど)に使われている。凍結防止剤による腐食を防ぐため自動車のエキゾースト部材はステンレス化が進んでいる。SUS409Lなどもある。

SUS310S・SUS309S:Cr、Niを増やした高級耐熱鋼。1000℃くらいの熱に耐えるので、炉材や熱処理器具などの過酷な条件で使われている。なお、耐熱性は、SUS304<SUS316<SUS309S<SUS310S の順。価格も順に高くなる。
SUS310SがCr25%・Ni20%の合金で、それ以上の含有率のものは、ニッケル合金の範疇になっていく。ニッケル合金の代表的な商標名として、ハステロイ・インコネル・カーペンターがあるので、ご紹介まで。

SUS303:快削鋼。SUS304に、燐(P)硫黄(S)などを添加すると、切り粉がきれいに出て削りやすい材質になる。旋盤加工などの切削部品(刃物でけずって造るもの)用途。ただし、耐食性が落ちるので、使用環境に注意が必要。クロム系の快削鋼はSUS416がある。丸棒材が主体で、板材は少ない。

SUS301:板バネ用鋼種。SUS304よりC(カーボン・炭素)を多めにしてあるため、冷間圧延加工による加工硬化が大きく、板バネとして使われる。圧延メーカーが、多種の板厚で製造している。SUS304よりもバネ性が高い。板バネの記号は、CSP(cold spring plate)。

SUSXM7(さすエックスエムセブン):ヘッダー・転造・深絞り用途。SUS304をベースに、銅(Cu)が3〜4%混ぜてある。加工硬化が少ないため(柔らか)、冷間鍛造(ヘッダー加工)や変形率の大きなプレス加工などに用いられる。SUS304では、割れてしまうような加工をする場合に使う。ステンレスのネジ(ビス)などに使われることが多い。

一般鋼種は、JIS記号とあまり変わりませんが、少し特殊な鋼種だと任意な鋼種名称になっています。同等鋼種でもメーカーにより鋼種名がぜんぜん違っている場合もあります。JISの範囲では同じでも、メーカーごとに少しずつ違い(特徴)を持った独自の鋼種として、それぞれ独自名称を付けていることも多いようです。

なおJIS(ISO)の記号ではなく、「18−8 ステンレス」などと表示されている場合も多いのですが、これは、クロムとニッケルの成分比率を数字で表しています。「18−8」の場合は、18%クロム・8%ニッケルのステンレスですので、SUS304(相当)の材質ということになります。同様に「18 ステンレス」とあれば、SUS430(相当)ということになります。

SUS316系統の材料はモリブデン含有のため、一般消費者向けにモリブデンステンレスとか、高耐食ステンレスなどと書かれている場合もあります。

ステンレスは、その屑やスクラップをほぼ100%リサイクルできる材料です。高価な金属成分をもつ合金ですので埋め立て廃棄などしてはいけません。極力分別しリサイクルできる製品設計をしましょう。(勿論、他の金属も同様です。)